墓場歩きをしていて「これは面白い」という石塔に出逢う事がありますね。
趣味的には五輪塔・宝篋印塔・宝塔など石塔の古さの方に興味が行きますが見落としがちなのは「エピタフ」です。
この単語は以前ブログでも記した覚えがありますが、「キング・クリムゾン」というバンドの「Epitaph」(墓碑銘)を聞いてからたまたまずっと頭から離れなかっただけで、それもまぁ職業柄知っていても損はないと、時折使わせていただいています。
もっともそのアルバムは「クリムゾン・キングの宮殿」の方が有名でしたが、この手のバンドの曲を聞く同級生といえば奥の墓道氏ほかごく数名に限られるほど学校内のマイナーでした。
殆どの連中が日本の歌謡曲を聞いている時代でしたからね。
要は浮いていたということ。
狂人を装うというか真の狂人なのか、若い頃にハマったものでした。「狂気」などと恰好をつける気はありませんでしたがそれを少しでも自覚しようとの試みは成長の過程で自己を養生していったことと心地よく振り返ります。
今世間では、それ・・・人間Schizoid man(そのアルバムには「21世紀のスキッツォイド・マン」なる曲もありました)・・が溢れかえっていますね。
さて、以前行った麻布善福寺の境内。
開山堂前に福沢諭吉の墓があります。一所に彼の奥さんの名が並んでいました。
「阿錦」ですね。読みは「おきん」。
叔父の指摘から気づきましたがこれは「エピタフ」ならではの接頭辞の使用では・・・と思うところ。
「お」を名前の頭に付けて呼ぶのは親近感溢れる呼び方で、まぁここでは「きんちゃん」の如く。
こちら善福寺の銀杏から作った聖徳太子像を貰って帰った波さんの通称は「於波」でこちらの場合はその「お」が「於」。
他に「お」といえば「御」がありますね。ただしそちらの「御」の場合は少々お偉いさん風。
諭吉妻の「おきんちゃん」が「於」でなくて「阿」であるのははハッキリ言ってどっちでもイイところですが、こちらに関して言えば後世に残す「墓」であって「厳か」にしなくてはりません。
特に福沢諭吉時代あたりの知者の思うところ「知的先達」といえば「中国」です。漢文を読み四書五経を引くのが知者のイメージでしたからね。
最近になってその傾向を改めたいなどいう輩が登場しつつありますが、日本の古典・文化はまず100%中国の影響を受けていますので、どうあがいてもそれはムリな話。
諭吉はその中国語で愛称を作る人名接頭辞「阿」を持ってきて「お」としたワケです。
魯迅の「阿Q正伝」がありましたがそれは中国風にいえば「Qちゃん~」でしたね。
ということで一昔前の「エピタフ」は「文字は厳かな方をあてる」というのがスジ。
恰好と体裁を重んじたワケですね。
叔父がいうには当時(江戸期から明治)の漢字の読みに現在の如く厳密に国語の読みの試験のように正誤ハッキリさせるという意図はなく、曖昧を楽しむという洒落心があってそれを「知的」と感じたところがあったよう。
よって現在では有り得ないというか明らかに誤りだろうと思われるような文字が崩し字として使用されていて、それが現代人の頭を「混乱」(Epitaph)させるのですが、この100年はそれを「一つ」にして全国共通の国語を成立させた歴史だったということです。
叔父がその件について語っていました。
たくさんの兵士を駆り出し中国を攻めた日清戦争で戦死した兵士の名の管理ができなかったということからすべての国民に苗字をつけて判別可能にしたのですが、その戦争で全国から招集された民の記す「文字・言葉」についてもハッとさせられたはずだと。
要は薩摩出身者と陸奥出身者の言語・文字について「まったく通じない」という不便を思い、「国語」の大切さを感じたのでしょう。それが今の漢字の読み書きの統一です。
そして「文学的緩さ」(遊び)というものを排除していったのですね。
最後の画像文字はある墓石から。こちらの読みについて問い合わせがありました。
この手のものは叔父の出番になりますが、上の文字は「き」というのがわかります。そもそもこの「き」は「機」であって「へん」が無くなってかつ「つくり」の部分を省略して書いたものとのこと。
下の字は「能」だといいます。
へんの部分は殆ど「てへん」の様に見えますが・・・(伊佐新次郎の「謙受益」の「謙」など「ごんべん」ですが「一本棒」の如くでした)・・・
よってこの文字は人の名前ですが「機能」と書いて「きの」さんと。
「どんだけカッコよく記すんだ!!」と思った次第です。
コメントをお書きください
野村幸一 (土曜日, 03 8月 2019 05:28)
機能ですか!
で、"きの"素人には読めませんね。ありがとうございます。
あと"淨川"という名字を検索しましたがヒットしません。こちらも気になり始めました。
今井一光 (土曜日, 03 8月 2019 07:35)
ありがとうございます。
「淨川」は上記の観点からすると「清川」が真っ先に浮かんできますが。
がつお (土曜日, 03 8月 2019 10:18)
ついでですいません。
くずし字に関して一つご紹介を
奈良文化財研究所と東京大学史料編纂所が運営しているもので、一文字分だけですが画像で検索できます。ヒット率は低いですが複数の文字が想定できるので便利です。
ただ、墓石の画像は難しいかもしれません。
(上からなぞって検索してみましたが「能」は出てきませんでした)
http://r-jiten.nabunken.go.jp/index.html
「共通検索画面」は今の文字からくずし字を検索
「木簡くずし字解読システム」は古文書などの画像から似た文字を検索
野村幸一 (土曜日, 03 8月 2019 11:34)
そんな便利なところがあるんですね!
この墓石の文字は筆跡もどこから始まっているかわからないので難しいですよね。サイト、覗いてみたいと思います。
野村幸一 (土曜日, 03 8月 2019 11:55)
あ、隣の墓石は長女で名前が"ふき"機繋がり?
今井一光 (土曜日, 03 8月 2019 21:01)
がつおさん
ありがとうございます。
左側のナビの寛政譜索引に追記させていただきました。
今井一光 (土曜日, 03 8月 2019 21:03)
野村さんありがとうございます。
漢字文字の読みについて音(オン)を同一にすることはよくあることですね。
酒井とも (火曜日, 06 8月 2019 09:46)
こんにちは。
私も「キング・クリムゾン」好きです。
最近は寝落ちに何故か、YouTubeで2ndの「ポセイドンのめざめ」を聴いております。
ブートレッドライブアルバムの「Starless」も鳥肌ものでした。
「風に語りて」からの「Epitaph」(墓碑銘)への移行は今聴いても斬新ですよね。
歴史観点から離れてしまい、失礼しました。
今井一光 (火曜日, 06 8月 2019 20:07)
ありがとうございます。
今は殆ど消えた感のあるプログレ。
私もユーチューブでお気軽ミュージックは当たり前のよう(スピーカーに出力)にやっていますがしばしば音量をアップしすぎて奥方に叱られています。
特にあの辺の曲はまったく理解されないようで。
あれもロックの歴史、1ページですね。
古文書講師の叔父からELPを聞かされてからそれらのスタートでした。
酒井とも (水曜日, 07 8月 2019 14:19)
こんにちは。
ELPのグレック・レイクはベースラインが綺麗な技師のイメージです。
ジョン・ウェットンはUriah Heep・U.K.・Asia等の渡り鳥の感じですが、好きなベーシストです。
ボズ・バレルはフィリップ殿下にベースを習って(Vo、B)になれるなんて才能ですよね。バト・カンでは普通に(B)ですもん。
ちなみにエマーソン・レイク&パウエルのELPもありましたね。
私は一世代下の年代ですが、ロック創世記の多様な音源にはビビッときました。
楽しかったです。
今井一光 (水曜日, 07 8月 2019 20:08)
ありがとうございます。
お詳しくてかなりハマりこんでいらした様子がうかがわれます。
当時はラジオばかり聴いていましたが、最近はそんな曲たちがオンエアされることは
なくなってしまいましたね(今も車に乗るととりあえずFMですが・・・)。
つまらない曲とトークばかりで辟易して結局は昔の極東チャンネル(AFN)に変えています。今はどうか知りませんが沖縄ではFMでAFNがありました。
そちらのチャンネルですと。ヒットチャートだけでなく古い曲もかかりますね。
家ではインターネットラジオもいいですが何せ奥方の趣味と違うため「うるさい」と
怒られます。
酒井とも (金曜日, 09 8月 2019 09:53)
こんにちは。
私の家族もこのジャンルの音源への理解度は皆無です。
先々週ですが、NHKのひるのいこいにてクリムゾンの「太陽と戦慄 パートII」が流された時にはうれしいというよりも、吃驚でした。
リクエストなのか、この音源に理解ある方がスタッフにいるのか判りませんが昼の時間帯に流されるのは皆無ですよね。
先週にはNHKの聴き逃し番組を探すにて、ひるのいこいのバナーから当日の音源を最初から聴き直して楽しみました。
「AFN」とは極東チャンネルというのですか。当地ですと、余り電波環境が良く無くて、遠出した時に思い出したように聴いております。
では、失礼します。
今井一光 (金曜日, 09 8月 2019 11:11)
ありがとうございます。
どうしても家中「独り善がり」との中傷の言葉が飛び交ってしまいますね。
時々テレビから聞こえてくる懐メロロックに、選曲採用者の同世代を感じます。
「AFN」は「旧FEN」-Far East Networkで極東放送ですね。
進駐軍による進駐軍向けの放送局というワケです。
そんな戦後からの名残の放送局は名前を変えてインターネットで聞くことができ
楽しんでいます。
アメリカは好きだけど嫌い・・・変ですね。