作文しちゃう 歴史 家系図 掛け軸 出所

久しぶりに地元に住まう刀剣のスペシャリスト、N師の元へ。

相良の繁盛が復活しつつあった幕末に山岡鉄舟が泊まったといわれる「古い家」の檀家さんが「物置から出てきた」という「大・小」のうちの脇差の方を持ってこられました。

太刀の方は錆びだらけで「金物の日に捨てた」とのこと。

価値は無さそうだが一応見てみて・・・ということでした。


 

「うわっこれは勿体ない」と思って「銘は?」と尋ねれば「知らない」と。「証明書は?」と言えば再た「知らない」。

それでは「銃刀法違反だね」とニヤッと笑いながら拝見してみればやはり刀身には錆びが。素人見には反りが深く一見良さげ。

基本通り「茎(なかご)」に銘の有無を確認しようと外しにかかろうにも固着していてどうにも外れません。

よく見れば鞘はサイズも形も違っていて、まに合わせの鞘が使われているようでした。先代が「ペンチで抜こうとした」跡も見受けられました。

 

以上のことから鑑定を依頼に先生の家へ赴いたのでした。

先生は第一声「正宗だったら偽物(ぎぶつ)だよ」とニヤリ。

あれだけ苦労した茎抜きもさすがに師匠、あっさりと抜き去り問題の銘の有無を。二人で目を凝らしました。

 

私は鉄舟が酒代欲しさに飲み代として置いていったという説をぶち上げて、イイものだったら「作文」して「鑑定団に出したとしたら・・・」というと師は銘の有無の確認より先に、刀の鍛え段階のキズを発見。

「こりゃだめだ!捨てた方がいい」のいつもの歯にきぬ着せぬ発言。この台詞についてはいつものことで、おそらくそう言われることもありうるので先方さまにはショックを受けないよう事前に説明しておきましたし、ありのままの評価をお伝えしますということで預かってきました。

 

一応まともにこの刀を維持するためのコストを尋ねれば登録に6300円、そこに行き着くまでに発見報告を警察署に届けます。現場検証も場合によってはありますね。

その後鞘の製作が約2万円、研ぎが8万円程度とのこと。念を押されましたが「登録料をかけるのも無駄」と言われてしまいました。

 

さて、歴史を作文するとは、先生の持論でもあって何度も何度も言いふらして時間をかけて、同じことを書物にでも記せば「史実」になっちまう、ということです。その作文にはある程度の知識と説得力、そしてその時代の状況からみた推測が合致する必要がありますね。

よって伝承ながら「価値」を上げるための手段として、骨董などの謂れ、由緒等の作文や偽物(ぎぶつ)そのものが世の中溢れかえっているのでした。

 

ブログのどちらかでも記していますが当地には家系図制作を請け負う人がいますが(だいたい1件10万円と聞きます)「わからないところは推測」が基本でしょう。

まぁ大元辿って「○○天皇からの流れ」というカタチで納めれば依頼人はじめ大いに納得、めでたしめでたしで支払いに応じてくれましょう。

ちなみに真宗大谷派ではその手の方々が来られて「過去帳見せてください」と言われてもお断りすることになっています。

 

家屋の中で確認できなかった「茎(なかご)」銘を試しに日光の下で見てみようと、外に出すと何やら文字が浮き出てきました。

凝視すれば・・・なんと「正宗」と。

「正宗」はむしろ無銘が多いといますし、その銘を彫った偽物の多さも天下一。


ちなみに掛け軸(書)で偽物が多いのが山岡鉄舟ですね。

通称鈴木鉄舟と呼ばれる高橋泥舟の縁者という人がその書を真似て書き、主に石油掘削(相良油田)の費用としたという話がありますが、あまりにも鉄舟の書を書いたことから鈴木鉄舟と呼ばれたようです。真正より丸っこい書体となるようです。

 

聞くところによると一晩に100枚はザラに書いたといいます。

泥舟の縁者ということもあり、泥舟の落款を借用し、泥舟の模写もしたもので、彼が記したものであっても「高橋泥舟の真物」で今は通ってしまっているようです。

面白いのはよく上記二人に勝海舟を加えた「三舟セット」がある家があったり、まとめて売られていることがありますが、まずそれは間違いなく偽物が予想できるとのこと。

ということで当家の鉄舟の書も私は偽物だろうと考えていますので人さまにはあまり見せていません。

「鉄舟です」は半分以上まがい物ですので恥をかきかねません。もっとも真贋ハッキリ鑑定できる方はそうはいないでしょうが。


この三人の書と「正宗」の刀は初めから偽物と考えるのが妥当だともいいますね。まだまだ書でも絵画でも刀剣でも古文書でも偽物が溢れているということはあの鑑定団を見ていればおわかりでしょう。

 

これら「3つセット」はイカ様と覚えるが得策ですね。

ただし、書というものは誰が記したかでなく、何が記されているかです。教訓として、座右の銘として生活の糧にするものです。

 

画像は既出、先生から頂いた帰敬式(おかみそり)用の小刀。

邪道とのお叱りを受けましょうがこの刀は私のお宝もの。

刃が付いていますのスパッと切れますよ。

よって緊張感をもって式を執り行えます。刀を容れる袋は輪袈裟のお古をリサイクル。

 

前述の刀に鍛えの傷がある場合、茎(なかご)とは別に「何か彫ってごま化す」という方法もありますが、上記の傷はそれでもどうにもならない大きさと位置にあるとのことでした。

いただいた刀には作者と刃の銘「無量寿」が刻まれています。

最後の画像が登録証。家伝長船の太刀のものはどこかにしまってから失念。

 

尚、帰敬式用小刀には登録証は不要です。

私が持ち歩く事を承知で作っていただきました(法定のサイズ内を意識)。

都心あたりで何となく検問等に遭遇し、「この刀は何だ!」と問い詰められ、「銃刀法違反だ!、違法所持だ!」ともなって、もごもごとまともな説明ができなかったりしたら、今時1週間は出て来れないかもしれません。

法衣を持参していたとしても、「御香」なども大きな疑惑ともなることは必定。

当地に来て警察の検問には一度も遭遇したことがありませんが、都内という地は毎晩のように色々な場所でそれが「開催」されています。

まず飲酒検問とただの「免許証拝見」、怪しいと見られれば「荷物見ていい?」ですね。

 

若い頃、友人で「免許証も、荷物も見せぬ!協力しない!」と言い張った強者がいましたが、パトカー数代の応援が来て逮捕寸前になったことを思い出しました。